プレミアム・プライシング・スプレッド

レンタカー業界の根本的な課題
日本には8000万台の車両があり、そのうち800万台が商用車である。
レンタカーとカーシェアは合わせて100万台ほどあると言われているが、国道を車で走っていても目につくのはトヨタレンタカーとニッポンレンタカー、タイムズくらいである。その他のレンタカーは路地に入ったところや、国道や駅、ハブとなる公共交通機関から少し離れたところに土地を借りてひっそりと運営されている。格安レンタカー各社は高い稼働率を実現しながら、意外と薄利多売で利益を得ることができず、客付きが多い割には拡大できていない。これは飛ぶように売れる格安の水が意外といろはすにROICで負けるというのと似ている現象である。
グリーンプレミアム課金とプレミアムポジショニング
TANAAKKレンタカーは、ニッポンレンタカーやトヨタレンタカーより便利な場所、人の集まる繁華街周辺で、ニコニコ・ガッツといった格安業者の約2倍に相当する「プレミアム」で提供している。しかし、現状ではTANAAKKレンタカーは大きな赤字先行である。現在運営されているレンタカー事業者で最も赤字が多いと言っても過言ではない。それはなぜか、将来フリーキャッシュフローの現在価値に投資しているからである。TANAAKKレンタカーが投資しているのは「時間」や「地球環境」という「経済」や「価格」の上位にある思想である。都市の計算資源として移動手段を観察したときに、AからBに行くためにD地点に迂回したり、AからBに行くために地下に潜って迂回するというのが現代の移動手段であり、AからBに直線距離で向かう経路はほとんどない。未来に投資しているため、現在の売上とは矛盾する支出が発生していると言える。しかし、これは急激な成長を実現する企業にとっては自然なことであり、その事業に求心力、重力があるのであれば、有利な資本調達に困ることはない。
「売れるところに在庫をおいて売る」「売れないところからは在庫を引き上げる」
駅前や都市中心部の“いま必要としている人”へデリバリーすることで、価格競争ではなく「時間・利便性」への価値課金を実現するのがTANAAKKレンタカーである。事業は「売れるところに在庫をおいて売る」「売れないところからは在庫を引き上げる」を基本とすべきであるが、土地の取得、建物の建設、水道、電気、ガスの工事、駐車場の工事、社員の雇用など長いリードタイムが発生するレンタカー他社は出店したレンタカーをすぐに撤退することができない。一方、TANAAKKレンタカーはステーションを増やす際に大きな投資を必要としない。工事が発生しないということはCO2(二酸化炭素)も排出しないということであり、「時間」も「環境」にも貢献するエコアクションである。
完全ペーパレス
一方、TANAAKKレンタカーは設計思想として一切の物理的な紙を使用しない。約款、貸渡の電子契約、運転免許証の電子コピー保存、これは全て既存のレンタカーでは紙ベースであり、カウンターにペンが置いてあるはずであるが、TANAAKKレンタカーでは紙もペンも買っていない。完全ペーパレス、eKYC、電子サイン、キーレス(鍵のやり取りなし)によって事業が運営される。また、社内の事業計画や稟議資料も完全電子化で運営されているため、事業のことを考えるときに紙を印刷するということがないのがTANAAKKレンタカーの特徴である。行政手続きや事故対応も含めて完全ペーパレスを実現している。これは書類による事業態を組み立ててきた既存のレンタカー事業者はなかなか実現できないグリーントランスフォーメーションである。
全台をハイブリッドカーに
また、TANAAKKレンタカーでは計画的に全台ハイブリッドカーに入れ替えをはかっている。新たに導入する車はすでに全台ハイブリッドカーである。軽自動車、普通ガソリン車に比べて、ハイブリッドカーを1台運用すれば、杉林が50本年間で吸収するCO2を節約できる。
確実に被害者を生んでいる地球温暖化
30年前の札幌は30度になる日が年に1回あるかどうかという気温であったが、今では毎日真夏日で40度近い気温である。東北地方はもはや雪が降らない地域も多い。東京でも、20年前は気温は高くても33度くらいだったが、40度近い気温になっている。今の時代の子供達は、プールサイドに座ったらお尻が火傷して、60人が搬送されるなどの被害を受けている。これはもはや、昭和、平成と続いてきた産業競争による被害者と言っていいだろう。
地球温暖化の被害者は誰に損害賠償すれば良いのか
もはや加害者は生存していないし、加害から被害までのリードタイムが長すぎて、誰に損害賠償すれば良いのかわからないので、ほとんどの場合深刻に取り上げられていない。このペースで森林の木が伐採され、砂漠化が進み、山火事が多発し、一方で大量生産のために化石燃料を燃やし続け製造業の競争を国が続けていれば、30年後の子供達は、夏は危険なので外に出られないという日本に住むしかなくなる可能性が高い。人間は1人が1年生きているだけでも杉30本分の二酸化炭素を排出している。家畜を飼えば家畜も人間と同じかそれ以上の二酸化炭素を排出する。今地球は局所的な競争によりじわじわと人間が住みづらい星へと減価していっているのである。この地球環境破壊の流れを止めためには消費者、事業者からのムーブメントを起こしていくしかない。
プレミアムを取るということは「時間」や「資源」を節約することである
必要性の高い顧客に向けて需給に応じた高単価で供給する収益マネジメントは、時間と資源を節約することにつながる。格安レンタカーが3回回して得る利益を1回で得ることができれば、社員は3分の1稼動するだけでよくなる(人は無料という考えが蔓延しているが、人もコストであるし、二酸化炭素を排出している)。駅近くのステーション設置+配送システムにより、ユーザーの“移動したい瞬間”に対応し、顧客が支払う意思を高める「プライシングパワー」を獲得する。余計な安売りはせず、しかるべきところでマージンを獲得することのできるプライシングパワーは、「時間」と「地球環境」を節約することにつながるのである。
割りを食う人がいない会社の仕組みを作る
また、企業が利益を生み出しても結局株主や経営陣しか儲からないということはよくあり、割りを食ってしまう人が発生する。割りを食う人が発生しないということは、マージンをしっかりとり、激務によって稼ぐのではなく、世の中の力学に対する適切な理解によって稼ぐという企業風土を醸成していく必要があるのだ。
バイイングパワーの拡大
タナークは調達面でも戦略的に動く。メガバンク、地方銀行、財閥企業といった複数の最大資金調達プレイヤーを競合させることで資本、駐車場、車両、保険に対するバイイングパワーを高めている。規模が大きくなるにつれて調達コストは下がっていく。
世界一「スプレッドをとれる」移動サービスへの志向
タナークは「人間の移動という問題に対して、世界で最も大きなスプレッド(調達価格と供給価値の差)を取れる事業者となる」ことを目指しており、移動の自由においてトップシェアを取る設計になっている。無人キー、24時間非対面運用、予約から出発・返却までのスマート体験など、時間と場所の制約を限りなく削ることで、TANAAKKレンタカーを選ぶユーザーが「時間」と「地球環境」というプレミアムを購入することができ、ユーザー自体の発見につながる、つまり、DCF的に将来フリーキャッシュフローの現在価値の果実を享受できる取引条件を意図的に創出している。
✅ 戦略まとめ
戦略要素 | 内容 |
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グリーンプレミアム課金(プライシングパワー) | 格安レンタカーの2倍の価格設定でも、即時性・利便性で顧客価値を創出 |
「売れるところに在庫を置く」デリバリー体制 | 駅近・都市中心部への配送により、欲しいタイミングに車を届ける |
規模の経済が働く調達戦略(バイイングパワー) | 複数金融機関を競わせる資金調達で低コスト調達を実現 |
スプレッド最大化 | 人の「移動の自由」に対して、高い価値を提供し収益最大化する事業設計 |
TANAAKKレンタカーは、高価格でもニーズが高いターゲットに対してサービス提供する収益戦略と、複数金融プレイヤーによる資金調達の競争によって、価格競争ではなく価値と収益の最大化に注力している。これにより、“移動の自由”を求める顧客に対してトップシェアを狙えるプライシングパワーとバイイングパワーを同時に実現し、しかるべきスプレッドモデルをスケールしている。